『貴婦人の訪問』観劇雑感
オールネタバレですので、ご注意ください。
貴婦人の訪問 11/19ソワレ観劇
「登場人物が全員クズ(聞いたママ)のオトナの作品」と聞いたことがありましたが、本当にその通りでした!!
ストーリーはこんな感じ。
億万長者の未亡人となったクレア(涼風真世)が財政破綻寸前の故郷、ギュレン市に戻ってきた。
人々は、かつての恋人アルフレッド(山口祐一郎)がクレアに財政援助を頼んでくれることを期待していた。
そして、クレアを迎える晩餐会。大々的な市への援助を約束したクレアだったが、多額の寄付金と引き換えにある条件を提示する。
それは―「アルフレッドの死」。クレアの目的は?
そして、家族や友人が、アルフレッドに対して下した決断とは―(『貴婦人の訪問』HPよりhttp://www.tohostage.com/kifujin/intro.html)
クズしかいない登場人物の中で特にクズな主人公のアルフレッドはこんな人
・若い頃、恋人のクレアを妊娠させるも、店を守るために別の女(アマンデ)と結婚する。
・クレアの子供の認知裁判を、友達と結託して「クレアは誰とでもなる女だから俺の子じゃない」と言って認知を却下させる。
・事故で納屋から落ちたクレアを死んだと思い込んで、怖くなって置いて逃げた。
・数十年後に、昔の女(クレア)が現れたので、長年連れ添った嫁を捨てた。
わーひどい。こんなひどい主人公見た事ない。
20億の代償がアルフレッドの死だと知った人たちは、「そんなことは到底受け入れられない!!」と突っぱねていたはずなのに、
「20億ユーロをみなさんへ平等に行き渡らせます」
という話が街に広まって、銀行もクレアのお金をあてにして個人向けの融資を再開するものだからみんな散財しまくり。
「支払いは〜クレジット♪」
と浮かれてどんどん高級品に手を出す住人たち。
この、浪費に走る(=アルフレッドの死を望む)人の衣装が、地味なものからキラキララメの80’S風メタリックファッションに代わっていくのが面白いです。
話が進むと、ひとり、またひとりとメタリックファッションの人が増えていきます。
で、そんな住人たちを見たアルフレッドが、「20億が手に入るということは、俺が死ぬってことなんだぞ?!」と怯えているのに対して、親友は「そうはならないさ」
と言いながらもおニューの靴を履いている…
ここ、ゾッとしましたね。
自分の事を守ってくれると思ってた人たちが「自分が死ななきゃ手に入らないお金」をあてにして散財しだした…
お金をあてにしながらも「クレアはなんてひどいやつなんだ」と言っていた住民たちですが、アルフレッドが昔クレアにした仕打ちが明らかになると、手のひらを返してアルフレッドを責めます。
これ、ネット上でよくあるやつ…って思いました。
金のためにアルフレッドに死ねとはいえない、という空気感だったけど、「あんなことする最低な男なら報いを受けて当然」と心置き無く叩けるんですよね。
昔、彼女の事を娼婦の娘だと言って酷い仕打ちをしたのはあなたたちじゃないのか?って思うんですけどね。
こんな感じで印象的なシーンを上げていくときりがないのですが、個人的にグッときたのは、車を買ったりお稽古事に励みだしたりした子供達(もちろんお洋服はメタリック)を見て、アマンデが「まだ子供なのよ」とアルフレッドを慰めるのですが、アルフレッドは「もう大人だ…」と呟くシーン。
打算で物を考えられるようになったから、彼らはもう「大人」なんですね。
このシーン良かったなぁ…良かったと言っていいかわからないけれど。
あとクレアのペットの黒豹が逃げたシーンも、住人性(?)が感じられてなんともいえない気分になりましたね。
援助してくれるクレアのペットが逃げて、銃殺してしまうのですが、その時に市長がまず
「大切なペットとはいえ猛獣です!住人の安全のためにはやむを得なかったのです!!」
と言い訳から入ったところが、もう、なんというか、援助してもらう相手にそんな態度とるの??とドン引き。
流石にゲルバルトだったかに窘められて、お悔やみ申し上げます、と言っていたけど。
そもそも、猛獣とはいえ人のペットをそう簡単に殺すなよ、と。
クレアも「銃声が2発聞こえたようだけど…?」と言っていましたが、あれは1発撃ってさらに襲われそうになってもう1発撃ったわけでなくて、2発連続で撃ってるんですよね。
つまり最初から殺すつもりだったんですよね。1発撃って動きを止められさえすれば良かったはずなのに…
「猛獣!こわい」→「殺そう」
の思考の流れには、自分たちの目線しかないんですよね。他人の大切なペットだという意識がごろっと抜けている。
この黒豹のシーンがよく表していますが、この街の人たちには、根本的に他人を思いやる気持ちがなくて自己中心的なんですよね。
(援助をお願いするクレアのことを影で「娼婦の娘で元娼婦、昔からなんか変だった」って言ってるくらいだし…)
ちょっと挙げただけでもこんな感じで、後味悪くて誰も幸せにならない作品なのに、不思議とモヤモヤした気分にはならないんですよね。
モヤモヤしない理由①登場人物が全員クズだから、アンハッピーエンドでも因果応報だと思える。
理由②全員クズだから、クズな人に迷惑をかけられて一方的に被害者になる人がいない(全員加害者)。
理由③ずっと俯瞰で見られる(感情移入しない)。
この3つの理由かなぁ、と個人的に思いました。
Twitterでも書きましたが、逆にミス・サイゴンは見た後にモヤモヤが残ってしまうのって
①戦争という、自分たちにはどうしようもない理不尽な理由に邪魔される
②キムに感情移入してしまうので、ラストが辛い
この2つのせいかなぁと。
貴婦人の訪問の登場人物は、自力でどうにかすればもう少しましな環境に変えれたはず(市長すら、工場主が誰か知らなかったなんて!!)だから,自滅した感じがするし、キャラが全員ぶっ飛んでるのでそもそも感情移入できない。
むしろこの舞台は、罪を犯した人たちが報いを受ける様を見て溜飲を下げるという見方もアリなんじゃないかと思えます。
(でもそれって、自分のことを棚に上げてアルフレッドを責めた住人達の心理に近いよな、と思ってちょっと後ろめたい)
いろいろと書いてしまいましたが、決して幸せになれるストーリーではないのにまた見たいなと思わせる作品でした。
歌がポップでキャッチーなのが重くなりすぎなくてよいのかも。
あと、歌声がすばらしいところ!特におじさんカルテットのシーンはよかったなぁ。。
また再演してくれるかはわかりませんが、もう一度見て、じっくり考えたいなと思いました。
おまけとして、登場人物がどうクズなのかを以下に残しておきます。
・クレア
昔アルフレッドの子供を宿すも、裁判でアルフレッドの子供と認知されないうえ、売春婦扱いをされる。納屋から落ちた時に子供を失い、片足に障害を残した可哀想な人。
その後大富豪の遺産で大金持ちになっても復讐の炎は消えず、故郷に復讐するために帰京する。故郷を救うと言って20億ユーロを住人に配ると言うが、実は街の工場を買い取り稼働を停止させて困窮化させた張本人。
・マチルデ
人の男を奪った女
・クラウス
傾く街を立て直すために、人(知事やクレア)に頼むことしかしなかった市長
・ゲルバルト
友達とはいえ裁判で虚偽の申告をした警官
「お前のためだ」と言いながら、自分が手を汚さなくてすむようにアルフレッドに自殺を促す大親友
・クラウス
アルフレッドの死と引き換えに20億をもらうなんて非人道的だ、といいながら自分から動くことは出来ず酒に溺れた心弱い校長
・ヨハネス
聖職者でありながら、割と早々に金に走った牧師
羅列してみたけど、住人全員が
・クレアを街から追い出したクズ
であり
・金のために人の命を切り捨てるくせに「正義を通すため」と都合のいい理由を使って逃げたクズ
なんですよねー
(口が汚くて申し訳ないです…前に聞いた「クズ」があまりにも印象的だったもので)
すごい作品でした。